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研究内容

化学や物理を基礎とした物質科学分野において理論的研究を行っています。

物質材料のミクロな挙動(電子状態や分子ダイナミクス、化学反応)とマクロな物性・機能(材料が材料たらしめる性質)の両端を統合的に理解することを目指しています。 例えば、

* マクロな物性・機能が現れる起源となる分子の性質は何か? 

​* 分子のミクロな"性質"がどのようなマクロな"性格"につながるのか?

* マクロな性格はどのようにモデル化され、分子レベルの記述で表現できるのか?

などの疑問に、物理化学的理論や計算機シミュレーションを駆使して、応えるのが私の研究です。

そして、"わかった"と思えたことを活かし、新たな物質を創ることが私の物質科学的研究の目指すところです。

キーワード:

 物質・材料科学、理論化学、電気化学、統計力学、反応速度論、 量子化学・第一原理計算、分子シミュレーション、​機械学習

​最近の研究内容

​*[ 化学反応 ]  大規模固相構造変化につながる固相/表面分子拡散と逐次的化学反応過程

​*[ 電気化学 ]  キャパシタ充放電速度の起源となる電極界面イオン液体ダイナミクス

*[ 電気化学 ]  電極ゼロ電荷電位シフトをもたらす電極/表面分子の間の電子状態変化

​*[ 蓄熱材料 ]  既存の材料性能(最大蓄熱容量)を凌駕する新材料分子の提案

​*[ 化学反応 ]  水素原子の量子力学的トンネル効果に支えられた抗酸化物質の機能活性

​最近の研究内容(詳しく)

​*[ 化学反応 ]  大規模固相構造変化につながる固相/表面分子拡散と逐次的化学反応過程

 化学反応は気相や液相だけでなく固相においても起こります。物質の酸化や水和などの基礎的な過程は、材料物性の変化に重大な影響を与えるだけでなく、その過程そのものが材料の機能にもなります。しかしながら、表面を含んだ固相が絡む反応過程は複数種の素過程が複雑に絡み合った逐次的過程となるため、原子・分子がどのように動くことで反応が進行していくのかほとんどわかっていません。

 本研究の目的は、そのような過程を分子レベルで明らかにすることです。特に反応経路の構築や反応律速段階の表現、拡散と化学反応の絡み合いによる時空間スケールでの分子運動の不均一性の理解などに取り組んでいます。

​*[ 電気化学 ]  キャパシタ充放電速度の起源となる電極界面イオン液体ダイナミクス

J. Comput. Chem. 40, 2131-2145 (2019)

 現在、電池の代替として期待されているものに急速充放電が魅力的な電気二重層キャパシタがあります。これまでの多くの研究が蓄電容量、つまり静的特徴に注目してきたのに対し、ここでは動的特徴である充放電速度に焦点を当てています。電極間電位差の変化に応答して電解液のイオン液体分子が、どこでどのようにどんな時間スケールで動くかをシミュレーションによって説明しています。従来の蓄電容量に関する知見と組み合わせることで、より急速により多くの電荷を貯められる電極・電解液ペアの探索の加速につながっています。

 また、本研究では電極の電子分極を扱う効率的な方法の提案も行っており、導体界面での大規模分子シミュレーションへの適用が期待されています。

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*[ 電気化学 ]  電極ゼロ電荷電位シフトをもたらす電極/表面分子の間の電子状態変化

Phys. Chem. Chem. Phys. 20, 29362-29373 (2018) 

 電極電位は電極/電解液界面の状態を規定する電気化学において重要な物理量です。その基準としてしばしば利用されるゼロ電荷電位と呼ばれる値がどのように決まるのか、という問題に対して、本研究では金/イオン液体界面を例に、界面分子から電極への電子移動が最重要であるという回答を与えています。その電子移動の起源は電極と界面分子の分散力にあり、電子過多な陰イオンが必ずしも大きな寄与を与えるわけではないことが説明されています。
 ここでは、得られた知見に基づき電極金属やイオン液体種を変えることによるゼロ電荷電位の定性的な変化を推測していますが、効率的な電極反応に対する条件調整のためにはその定量的かつ系統的な見積もりが求められています。

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​*[ 蓄熱材料 ]  既存の材料性能(最大蓄熱容量)を凌駕する新材料分子の提案

J. Phys. Chem. C 120, 7903-7915 (2016), J. Am. Chem. Soc. 138, 11810-11819 (2016

 我々の社会では膨大なエネルギーが熱として排出・損失されていますが、そのような「未利用熱」を有効活用できる技術は未だ確立されていません。特に熱の時空間的輸送を可能にする蓄熱技術に関しては、高効率化のためには材料物質の観点から見直すべき状況にあります。そのような状況を踏まえて行われたのが本研究です。既存材料物質を調べることで蓄熱原理を明らかにし、その知見とデータ科学による解析を活用することで、既存物質の蓄熱容量を遥かに超える非天然物質を計算機内でゼロから構築することに成功しています。
 現在、その一部の物質は実際に合成され、蓄熱材としての有用性が確認されつつあります。本研究により蓄熱材開発の一層の加速と成功が期待されます。

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​*[ 化学反応 ]  水素原子の量子力学的トンネル効果に支えられた抗酸化物質の機能活性

J. Phys. Chem. B 118, 937-950 (2014) 

 我々の体の細胞は多様な抗酸化物質によって急激な老化から守られています。素過程としての抗酸化反応は酸化剤と抗酸化剤の間の単純な水素原子移動反応ですので、水素原子核の量子効果の抗酸化活性への役割がこれまで多く議論されてきました。本研究では、ユビキノール(コエンザイムQ10)によるビタミンEラジカルの還元を例に、水素原子核のトンネル効果の役割を議論しています。理論計算によって得られた結果は、トンネル効果がない世界では我々の皮膚は一瞬にして腐ってしまうだろう、ということを示しています。
 また、抗酸化反応に対するトンネル効果の寄与の大きさを反応熱という非常に簡単な量で統一的に理解できることも提案しています。

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